インタビュー : 「dTV VR」の撮影現場に潜入! プロたちが使うVRカメラや編集環境、実際の撮影方法などが明らかに

投稿日時 2月 21st, 2017 by juggly 投稿カテゴリ » ピックアップ記事, ブログ
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“VR 元年” とも評された 2016 年は端末メーカーやコンテンツプロバイダーから多種多様なバーチャルリアリティ(VR)のハードウェア、アプリ、コンテンツがリリースされました。そんな中、NTT ドコモの動画配信サービス「dTV」では現代の VR 人気を受け、「dTV VR」アプリをリリースし、それ以降も積極的にコンテンツの拡充と VR の普及を目的とした大規模なキャンペーンを展開しています。

dTV VR のコンテンツを制作しているのは音楽シーンやエンタテイメントの分野では国内大手のエイベックスグループです。そんな映像のプロたちが VR コンテンツの制作現場において、どのようにして VR 映像を撮影・編集し、dTV VR 上で配信しているのかを現場のスタッフさんたちにインタビューしてきました。このようなインタビュー記事を掲載するのは当ブログでは初めてで、今後も機会があれば積極的に取り組んでいきたいと思います。

今回、インタビューに応じていただいたのは、dTV VR の企画・演出・監督などを担当されている指揮官的な存在の近藤プロデューサーさん(以下、近藤 P)と、dTV VR の収録・編集・仕上げなどのカメラ技術を担当されているまさに映像のプロ 石ヶ谷テクニカルプロデューサーさん(以下、石ヶ谷 T)です。また、今回のインタビューの場をセッティングしてくださった青木さんにもこの場を借りてお礼を申し上げます。

私は Gear VR や Daydream、ハコスコ、Cardboard などの様々な VR デバイスを使って日々 VR を楽しんでいますが、映像のプロでも何でもないただのスマホユーザーなので、本物のプロたちがどんなカメラで VR を撮影し、どういう風にして編集・完成させているのかなどの素朴な疑問をぶつけてみました。

インタビューの中では、映像のプロが作り上げるハイクオリティな VR コンテンツの制作術や、今後も VR コンテンツの大きなテーマになるであろうアーティスト作品の制作における苦労話なども伺えたので、コンテンツ事業者の方たちにとっても役立つものになれば幸いです。

以下、Q&A 形式でインタビューの質問と回答を掲載します。添付の写真は実際に dTV VR で配信されている VR コンテンツの制作現場の様子や機材を撮影したものです。有名アーティストの AAA や、今ホット(?)なピコ太郎の撮影現場も写っていますのでお楽しみください。

Q:まず、VR 映像を初めて体験された時の感想をお願い致します。

石ヶ谷  T : 人間の感覚が変わるなと感じました。普段の映像は目で見るのですが、私の感覚だとVR映像は、“目で見ている部分” と “脳で見ている部分” という感覚があります。その感覚が不思議な世界だと感じました。映像の編集をする側の立場としては、新しい世界や表現が出来ると感じました。

Q:VR は、通常では再現出来なかった映像が出来るようになったということでしょうか?

石ヶ谷 T : 人間は 200 度ぐらいまで視野がありますが、見えない後ろの範囲まで VR 映像だと存在させることが出来るので、新しい演出技術や体験技術というモノがプラスされると思いました。

Q: dTV VR の撮影で実際に使用したカメラは何ですか? また、なぜそのカメラを選ばれたのですか?

石ヶ谷 T:今回の撮影では、GoPro 社の「Entaniya Fisheye250°」を使用しました。VR 映像の撮影時では空間が狭く、距離が短い場所が良いとのため、カメラの台数を極力減らしたいと思いました。GoPro の 7 台組みや、違うカメラメーカーなど色々ある中で、Entaniya Fisheye250° を 2 台などを想定していましたが、レンズの歪みや、光の情報が少なくなることなどを考えた結果、GoPro の Entaniya Fisheye250° のレンズ 3 台を使用するのが 1 番良いと考えました。

Q:シチュエーションごとのカメラの使用用途の違いはありますか?

石ヶ谷 T:ライブなどの撮影では、GoPro だと映像の解像感がきびしい部分もあるので、一眼レフのようなカメラで撮ります。

Q:VR 映像の撮影中に意識したことはありますか?

近藤 P:スタジオを借りる上で場所の狭さや、その場にいるという感覚を感じさせるために横の動きよりも前後の動きを意識する演出や、カメラに設定をつけることを意識しました。

VR 映像を見ている人には、その世界にいるような感覚を持ってもらわないといけません。その場にいる感覚になるには、横の動きよりも前後の動きを入れた方がより感じられると考え、「dTV VR」で配信する作品の演出に取り入れました。

また、その見ている人を中心に VR の世界を展開しないと、置いてきぼりになってしまう可能性があるので、カメラは誰の目線だという設定を考えて撮影しています。

ですので、SOLIDEMO のオリジナル VR 作品の中では、「失恋した私」であったり、また AAA のオリジナル VR 作品では、「AAA からパーティーに招待された私」などなあと設定を考え撮影しました。

石ヶ谷 T:実際の撮影現場で、僕らが意識していなかった事もアーティストの方が撮影中に演出で考えてくれたりました。

Q:VR 映像の撮影時に難しいことはありますか?

石ヶ谷 T:難しいことは、VR 映像として確認する際のプレビュー時間が長い事や、360 度で撮影しているため、現場での撮影は出演者以外は別室に待機するので、実際に撮影現場を見れないことです。

近藤 P: VR 映像は基本的にワンシーン、ワンカット撮りのため、出演者全員の動きもそうですし、壁に掛っているモノが落ちただけでもダメなので、全てが OK テイクになっていなければいけないというのが難しいです。今まではカット割りを編集して映像を作っているので、正直、何かあってもある程度は、編集で対応できたのですが、VR 映像は、通常の映像のような編集ができません。後で作品の流れや、カット割りの変更を考えても変えられないので、現場が全てになります。

通常の収録と違って誰か一人でも失敗すると再撮影になってしまうため、その事を出演者の方に理解していただかなければなりませんし、今年 VR 元年と言われているぐらいなので、出演者の方にとっても前例がないため、360 度カメラでどういった事をすればよいかわからないので、実際に VR 映像を見せるなどして説明しています。制作側も 1 回 1 回が修行の場のような感じです。なので、撮影が全て終わって、出演者の方に完成した VR 映像を見せたときに、「こういうことだったんですね」と言って帰っていかれますね(笑)

また撮影した映像を 360 度に編集するのに、時間がかかるので、その間出演者の方に待っていただかなくてはなりません。

石ヶ谷 T:そこが一つ大変なところですね。アーティストの方へのアナウンスが必要になります。撮影自体は簡単でも、確認作業のために編集している間の待ち時間が長い。つまりテイク 2 を撮ろうとすると、あっという間に 1 時間以上かかってしまいますからね。

Q:通常の撮影と VR 撮影では、どのような点が違うのでしょうか?

石ヶ谷 T:照明です。360 度見えてしまうため、見えても良い照明を入れております。

Q:撮影現場での編集作業ではどのようなソフトを使用されていますか?

石ヶ谷 T:「Autopano」というソフトを使って、250° 撮影できるカメラレンズ 3 つ分の映像で、かぶっている箇所を繋ぎ合わせて編集しています。そこから細かなレタッチ作業で破たんしている部分を最終調整しています。

Q:「Autopano」が映像業界では共通で使用されているのでしょうか?

石ヶ谷 T:他にもありますが、一般的には「Autopano」から使用し、そこから「ギア」や「アフターエフェクト」、「ヌック」、「フレーム」などに振り分けてまたそこからスティッチ作業を行っているかと思います。ちなみに、映像の繋ぎ合わせに関しては、VR 専用のソフトでなくてもできます。

Q:制作工程としては、各カメラの定位置を決め、各カメラで撮影したものをつなげるという流れですか?

石ヶ谷 T:現在「dTV VR」を配信している CYBERJAPAN DANCERS の映像の様にカメラのまわりを動きまわっていたりすると編集が大変です。2 ~ 3mくらいカメラから離れているとスティッチが上手くできますが、1m しか離れていないと、スティッチした時にクの字に曲がった映像になってしまいます。例えば、レンズ A とレンズ B に写った映像で上手くつなげられる部分をコマ送りで探してスティッチします。1 フレームずつ確認するためにひたすらパソコンで作業をしているので途方もない作業ですね(笑)

Q:そこの「上手くつなげられる部分」を見つければ、後の作業は楽になるのですか?

石ヶ谷 T:そうですね。A と B の映像でちょうど良い部分を探せれば…

近藤 P:A と B のカメラでは映っている顔の角度が全然違いますからね。

Q:VR の撮影に稼働する人数は、通常の撮影と変わりますか?

石ヶ谷 T:通常の撮影スタッフよりとても少ないです。カメラを動かす必要があれば、特機などを組まなければならないので人も増えますが、今回の撮影では、カメラは定位置に置いてあり、カメラマンの役割は照明を調整したり映像全体の色味を確認したりするぐらいになるので撮影チームの人数が減るんです。また、照明も通常よりも少ない人数で構成しています。

Q:最後に、VR 作品をどの様に視聴してもらいたいですか?

近藤 P:視聴する時の自分のシチュエーションを設定して、自分がその映像の世界にどう参加するかを決めて見てほしいです。例えば、AAA の VR 作品を見る場合は、「自分は AAA の 8 人目のメンバー」「自分は AAA の大ファン」「自分は AAA のファンでもないが、急にそこに連れてこられた男」とか、自分の役柄を決めて「自分は今こう見ている」という意識を作ると良いと思います。ファンという設定であれば、「にっしー格好良い!」など好きなメンバーばかりを見て楽しんでもらいたいですし、ファンでない設定であれば、「メンバーってこういう顔しているんだ~」と楽しんでもらうなど、設定を自身で作る事によって見る場所も見方も全然違うと思います。

石ヶ谷 T:それぞれの楽しみ方で楽しんでいただきたいです。VR スコープで見ている方は口の動きには注意していただきたいですね。視聴している時に皆さん無意識に口が動くんですよ(笑)

ありがとうございました!

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